「まずは、外れの通りを回ってみよう」
アリシアの声が午後の陽射しを跳ね返すように明るく響いた。
セラは頷くと、アリシアの隣に歩を並べた。
陽射しの柔らかな午後、二人は賑やかな通りを歩きながら、商店の軒先に目を留めていく。
店先の木工道具や果物の山を横目に、アリシアは時折、店主の姿を見つけてはそっと声をかけた。
「すみません。人を探しているのですが……」
アリシアは、ひと呼吸置いてから続けた。
「クローブ村のヴィクターという木工職人です。髪は短く、背丈は私と同じくらい。いつも腰に道具袋を下げています」
店主は少しだけ視線を上に泳がせ、そして首を横に振った。
「旅人なんて、このあたりじゃ毎日のように通りますからねえ。よっぽど印象に残る姿でもしてないと……申し訳ないけど、思い当たりませんな」
アリシアは笑みを崩さず、店主に深く礼をした。
返ってくるのは、どこか曖昧で心当たりの薄い返答ばかり。
だが、それは仕方がないことだ。急には見つからないし、何よりヴィクターは影が薄いところがある。
「あれ? もしかしてアリシアさんですか? 舞踏家の」
ふいに誰かに声を掛けられた。
アリシアとセラが振り返ると、そこには年配の女性が佇んでいた。
アリシアの言葉に反応した周囲の人たちも次第に足を止め始める。
「あの夜、月の光の中で舞っていた、あなたの姿が忘れられないの。夢の中にいるみたいだったわよ。本当に素敵ね、あなたの踊りって」
「ありがとうございます。光栄です」
アリシアは、ひときわ柔らかな笑みを浮かべ、優雅に一礼を返した。
そのしなやかな動作一つで、辺りに漂っていたわずかな緊張がゆっくりと解けていく。人々の心が和らいでいくのが、セラにははっきりと感じられた。
「その探している人って、どんな人?」
問いかけに、アリシアは先ほど店主に伝えた特徴を簡潔に繰り返し、周囲にも聞こえるように答えた。
「ああ……なんとなく、そんな人を見たような気もするけど……」
「でも、この前見かけたあの人はもっと髪が長かったかなあ。道具袋は持ってなかった気がするし」
「昨日の午後に材木屋のほうで、似たような背丈の人がいたけど……あれは別の旅人だろうねえ」
広場に集まっていた人々が思い思いに記憶を探る。けれど誰の言葉にも決め手はなく、語尾だけが曖昧に揺れていく。
アリシアとセラは